『子育ての大誤解(新版)』感想

育児書レビュー

かなりボリュームのある上下巻ですが、とても面白いです。

子供の性格の形成や家庭の外での振る舞いに対して、親は一生続くような影響を与えることなない(控えめにいってもほとんどない)という事実をさまざまな調査の精査を通して解説し、子供はどのようにして社会に適応するのか自説を展開します。

一言でいうと、「子供は親の背中を見て育たない」ということです。

愛情ある温かい育児をしないと子供の性格形成に悪影響があるとか、子供にいちいち共感したり受容したりしないと自己肯定感が育たないなどという強迫観念を持っていたり、未だに三歳児神話が気になったり、一人っ子が不憫だと思っていたり、保育園に通わせることに罪悪感を感じているような人にぜひ読んでほしい書籍です。

愛情あふれる温かい育児も、受容も共感も重要なのですが、それは親子が良好な関係を築くためであり、子供の性格形成のためではないということです。

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子供は成長する過程で「社会化」と「性格形成」がなされる

本書では、子供がどのように所属する文化に順応するのか(この過程を「社会化」という)を主に検証していきます。著者によると、社会化は文化に順応することで、その結果、同じ文化に所属する人々と似た行動をとるようになります。

性格はそれとは逆に、個々の違いを保ちつつも顕著にするプロセスで形成されるとします。従来、社会化と性格の形成は同じプロセスでなされると考えられてきて、著者も本書の旧版を書いていたときは同一視していたとしています。

この新版では、性格形成の仮設も垣間見ることができますが、主に社会化についての検証がメインになります。

では何が子供の性格を形成するのか?という疑問に対しては、主に別の書籍で解説しているようです(『No Two Alike -Human Nature and Human Individuality-』、未翻訳)。

何が子供を社会に適応させるのか

著者は、子供を社会化するのは、親でも友人でもなく、子供がある「社会的カテゴリーに属するという認識」だといいます。そして、それは子供が他の子供と同じ場を共有する瞬間から始まるとして、早ければ2歳から、ほとんどの子供が3歳までには経験するとしています。

親子が似るのは、親の背中を見て育つからではなく、遺伝の影響と所属する文化が同じであるからです。

人は環境と遺伝のどちらの影響を受けるのか?

行動遺伝学では、養子縁組にる血のつながらない兄弟(遺伝的に無関係)や二卵性双生児の兄弟(およそ半分の遺伝子を共有)、さらには一卵性双生児の兄弟(同じ遺伝子を持つ)などを比較することで、遺伝の影響を推定します。

これらの兄弟は同じ家庭で育つため、ほとんど同じ環境を共有していることになります。類似性が遺伝子の共有の割合に応じて高ければ、遺伝の影響と考えることができます。

また、家庭環境の影響は、別々の家庭で育った兄弟と同じ家庭で育った兄弟を比較して推定します。

行動遺伝学では、人々の違いは総じて50%は遺伝で、残りの50%は環境の影響によるものという結果に行きついたといいます。

ちなみに、50%というのは、ある特徴のばらつきの半分が遺伝に起因していると考えられるということで、半分くらい親に似るということではありません。

同じ家庭で育てられた一卵性双生児の性格ですら、外見とは違いかなり異なります。性格の相関係数はわずか0.50程度だそうです(相関係数は、1に近いほど強い相関を意味し、0だと無関係)。

親子の相関係数は0.50をはるかに下回っているのが普通だそうです。このことは2人以上の子供がいる方は特に納得できるのではないでしょうか。子供が親に似ているとすると、兄弟も似ていてもおかしくないのに、たいてい兄弟は全く異なる個性を持っているものです。

どのように育てようと子供の性格や行動に影響はほとんどない

では、遺伝が50%として、残りの50%の環境は何を意味しているのでしょうか。
多くの人は、それは「家庭」だと信じていましたし、今でもそのように信じている人はたくさんいます。

しかし著者は、どの家庭で育とうが、子供の性格に与える影響はほどんとないといいます。

成人後の兄弟の類似性はほとんどが遺伝子を共有しているからで、幼少時代に共有した環境(主に家庭)によって生じる類似性は皆無に等しいという結果をさまざなまな行動遺伝学の研究結果が繰り返し示しています。

  • 同じ遺伝子をもった双子が同じ家庭で同じ親に育てられても、成人後の性格には家庭はほとんど影響を及ぼしていない
  • いくつかの心理的特徴(特に知性)は、子供時代に家庭の影響を一時的に受けるが、思春期後半になると遺伝的な類似性を除き、すべて消え去る!
  • 同じ家庭で育った養子の兄弟のIQは、性格と同様に成人後の相関関係はゼロに近くなる

そうはいっても、愛情あふれる育児によって、のびやかな性格の子が育ったと主張するお母さんもいるでしょう。

そういう意見に対しては、「望ましい育児が望ましい子供を育てるのではなく、望ましい子供が望ましい育児を引き出したのかもしれない」というのが回答になりそうです。

つまり、親が子供に影響を与えたのではなく、育てやすい子供だから親がおおらかでいられたという考える方が合理的だと。そう考えると、育てにくい子供を相手に日々怒鳴って、自己嫌悪に陥っているお母さんの心も少し軽くなるのではないでしょうか。

もはや「自分がダメなお母さんだから子供がこうなんだ」などと思う必要はないのです!

子供は親が知っているのとは別の顔を持つ

子供は家と外では別の顔を持っています。母親がごっこ遊びにつきあえば、その時は高度なやり取りをするかもしれませんが、子供が一人で遊んだり、友達と遊ぶ場合には、母親とどんな遊びをしたかによって遊び方が変わることはないといいます。

親が子供の遊びを左右するのは、一緒に遊んでいる時だけです。親や先生に言われたことは、親や先生がいる状況に限ってそのとおりに行動します。

様々なシチュエーションで子供たちにズルをしたり、盗んだりするスキを与えた実験では、ある状況で真面目であった子が別の状況ではそうであるとは限らなかったといいます。

子供時代は同化の時期であり、この時期に自分の属するカテゴリー(同じ年代、同じ性別など)の行動様式を身につけます。多数意見にどの程度流されるかを調査した研究では、10歳未満が最も多数意見に同調しやすかったそうです。

また、子供時代は分化の時期でもあり、同性、同年代の他の子供と自分を比較し、比較をされ、個性が強まる時期でもあるとします。

子供時代に性格の基本的な枠組みは完成するそうですが、そこに親の介入の余地はほとんどありません。

家族の状況は子供に影響を及ぼさない

親の不在や離婚、夫婦仲の良し悪しも子供の行動や性格に永続的な影響はおよぼさないそうです。両親がいる子とシングルマザーの子の違いは、離婚などにともなう転居と低所得でほとんどすべて説明できるとのこと。

低所得は、仲間集団での子供の地位を低下させる可能性があります。

離婚や別居の一番の影響は、育つ地域や学校の選択に影響することです。転居をすると、集団内の地位がリセットされ、最下位からのスタートになり、仲間からも拒絶されやすいといいます。

その結果、転居しない子供よりも行動的にも学業的にも多くの問題をかかえる可能性が高くなるようです。

子供の学力を上げたいなら引っ越すしかない?

子供は、仲間内で「こうあるべき」と考える特徴が、とどんどん強まっていく傾向があります。

本を読むこと、勉強してよい成績をとることをよしとするグループに所属すれば、その傾向が強まるし、アメリカの黒人の子供社会のように、勉強するやつはダサいという価値観があれば、勉強をしなくなってしまいます。

グループの影響力は、グループから外れることで簡単に逃れることができます。
親は、子供がある程度成長したら友人を選ぶことはできませんが、引っ越しすることはできます。(ただし、引っ越し先に同じようなグループがいたら意味がありません)

また、労働者階級と中流階級のそれぞれの地域で育てられた養子の子供を比較すると、中流階級で育った子供は、大人になってもIQの優位性を保っていたそうです。

同じ家庭で育った養子のIQの相関関係がゼロだということを考えると、家庭内を変えても子供のIQに影響を与えるのは難しいと思いますが、住む地域を変えることは子供のIQに影響を与える可能性があります。

海外の労働者階級と中流階級の激しすぎる格差でも、IQへの影響はさほど大きいわけではないので、日本では心配するほどのことはないのではないのではないかと思います。

もし荒れている中学校に通わせて、子供が荒れたグループに所属する恐れがあるとか、利発でやる気に満ちたた子供が多い学校に行きたいというのであれば、引っ越しするか、越境するか、私立に行くかなどを検討するというのも選択肢になるとは思います。

また、親が子供に与える影響はないのですが、学校の先生は、子供集団のボスとして子供に影響を与えることができるといいます。

全ての子供のモチベーションを向上させるような優れた先生がたくさんいる私立に通わせるというのも選択肢です。(公立ではよい先生がいても、別の学校に異動になることも多いため)

親ができることはあるのか?

著者は、親が子供の将来の行動に影響を与えることはないといいますが、赤ちゃんが親から学ぶ初期の学習の重要性は否定しません。赤ちゃんが快適に生きていくためには、親のきめ細やかなケアが必要です。

ただし、5歳、6歳以上の子供にとっては親は必ずしも必要とはいえず、安定した仲間集団の方がより重要かもしれません。

親のいない子供より、仲間のいない子供の方が、正常な発達は難しいようです。
(仲間は親の代わりになるけれど、親は仲間にはなれない!)

自尊心は所属集団での地位によってもたらされるそうで、地位が低い状態が長期に及ぶと性格として固定化するとします。

親ができることは、子供の外見に気をかけることです。可能な限り普通に、そして魅力的に見せるように心がけるといいとします。

子供たちは人と違うことを嫌うので、変わった名前でも不利を招きかねないそうです。変わった名前と言うのは、キラキラネームというよりも、子供たちにとってからかいたくなる名前でしょう。

また、親は子供が幼い時に友達を選んだり、引っ越しや学校の選択することで間接的に子供の人生に影響を与えます。

さらに、親は子供たちの家庭内での行動には影響を及ぼします。

家庭内で学んだ行動や知識も無駄ではありません。子供は家で学んだことを仲間集団に持ち込み、他の子が家庭で学んだとここと一致すれば成長しても持ち続けます。

また、宗教や文化のように仲間集団に持ち込まないものは家庭で学んだことを持ち続けます。仲間集団から同調を要求されない、むしろ違っていることが称賛されるものは、そのまま持ち続けます。

何がそれに該当するのかは集団によって異なるそうですが、才能や趣味、政治的姿勢、目指す職業などには同調圧力がかからないことが多いようです。

職業の選択や余暇の過ごし方にも親の影響が残ります。

でも、何があるかは分からない

統計のデータが示す結果は一定のボリュームがある集団に対していえることで、一人ひとりの運命については何もわかりません。変わった名前や度重なる転居は多くの子供にとって不利になるかもしれませんが、ある子供は大成功をするかもしれません。

優秀な子供が集まる学校に通うと多くの子供は勉強熱心になるかもしれませんが、著者は地方に転校してむしろ成績が良くなったとしています。

現代の親はがんばりすぎなのかも

著者は、同じ種の中では体格的に大きくて強いものが、小さくて弱いものを制するのが自然の法則で、親は子供を制すべき存在だとします。親は子供よりも分別があるのだから、遠慮は無用といいます。

伝統的な社会では親が遊び相手になるようなことはないそうです。

自然の摂理は、私たちがやらなければいけないこと(食べること、子供を作ること、育てることなどなど)をちゃんと実行できるように、楽しみを感じるようにしてくれていて、本来ならば子育ても楽しいはずで、もしそうでないなら「努力のしすぎかもしれない」ともいいます。

「子どもには愛情が必要だから子供を愛するのではなくて、いとおしいから愛するのだ」「気を楽にもって。彼らがどう育つかは、あなたの育て方を反映したものではない」といった著者のメッセージは心に残りました。

本書の上巻は、詩人ジブラーンの『預言者』の引用から始まるのですが、読み終わった後に読みかえすと、詩の内容がズバっと頭に入りこむように理解できます。

本書を読破したら、上巻の冒頭に戻って詩を読んでみてください。きっと読む前とは違った感想を持つはずです。

著者:ジュディス・リッチ・ハリス
発行日:2017年8月25日
対象年齢:0歳~
おすすめ度:★★★★☆
面白かった度:★★★★

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