成功する子が幼児期に分かる!?『マシュマロ・テスト 成功する子・しない子』感想

幼少期の自制心と成長後の人生に相関があることが分かったという有名な研究を発端に、自制心に関する一連の研究をまとめた書籍。

著者は自制心は育てられる、大人でも変われると信じる立場から、研究の背景や考察をエピソードも交えじっくりと書いています。熱意が伝わる面白い書籍ですが、忙しい子育ての合間に、子供がどうしたら成功するのか手っ取り早く知りたいという方には、長くて読むのがつらいかもしれません。

面白いのは、もともと自制心が人生の展開にどう影響するかを想定した研究ではなかったないのに、追跡調査によってさまざまな相関が明らかになったことです。

研究では幼児の自制心を、目の前におかれたお菓子を食べずに待つことができる時間の長さで評価します。時間の長かった上位三分の一と、下位三分の一幼児のその後の比較で次のような傾向が分かったとしています。

  • 4歳~5歳の時に待てる秒数が長いほど、大学進学適性試験の点数が良く、青年期の社会的・認知的機能の評価が高い
  • 就学前に長く待てた子は、27歳から32歳にかけて、肥満指数が低く、自尊心が強く、目標を効果的に追求し、欲求不満やストレスにうまく対処できた
  • 一貫して待つことのできた人と、できなかった人とでは、中年期に中毒や肥満と結びついた脳の領域のスキャン画像ではっきりと違いがあった

幼児期の自制心は将来占う試金石だと言えます。自制心により、社会性や認知的な機能が高まること、ストレスにうまく対処できること、健康的な生き方につながるとは、言われてみればその通りですが、それが幼児期にすでに分かってしまうというのは衝撃です。

このような結果を見ると、幼少期から我が子の自制心を育てようと思う親は多いと思います。しかし、性格は遺伝するので、親の自制心が高ければ子供も同様である可能性は高いですし、逆もまたその通りです。早くも1歳半の赤ちゃんの行動から、5歳になった時に長く待てるかどうかある程度は予想できるそうです。そう聞くと、やはり遺伝の影響が強いのだろうという気になります。

生来の性格に対して、親は影響を与えられるのでしょうか。著者はそう信じています。自制のスキルは高めることができ、欲求を即座に充足することを繰り返して定着するよりも、幼いころに自制の戦略を学んで練習する方が簡単だと言います。

親ができることは、生後数年間は子供のストレスが慢性的に高くならないようにすることだそうです。赤ちゃんがストレスを感じたら、気をそらしてあげることで、自分で注意をコントロールして、気持ちを切り替えることを学んでいくそうです。

母親から選択と自由意志があるという感覚を後押しされた子供は、後にマシュマロ・テストで成功するのに必要な認知的スキルや注意コントロールのスキルが優れていたそうです。生活の中で子供の意志を尊重したり、選ばせることを意識するといいでしょう。(ただし、子供の認知的スキルがすぐれているから、親が自由意志を尊重できる、という可能性も十分あります。このような研究は『子育ての大誤解』を読むと違った見方ができます。)

また、自分で物事を選ぶことができるけれど、それぞれの選択によって結果が伴うということを経験させたることも自制心を育むとしています。親が約束を守ることも重要だそうです。信頼できなければ、がまんして待つことはできません。

マシュマロテストをやってみようと思う方もいるかもしれませんが、思うような結果にならなくても心配することはありません。「母集団について幅広い一般論を導けるが、個人個人について十分予想できるわけではない」からです。さらに、幼児期に先延ばしにする能力が低くても、年齢とともにうまくなる子もいれば逆の子もいるそうです。ちなみに女の子の方がたいてい男の子よりも長く待つそうです。

「マシュマロ・テスト」と呼ばれますが、実際にはいろいろなお菓子の中から、子供に好きなものを選んでもらいます。テーブルの上にはベルとお皿があり、お皿の隅にお菓子をひとつ、もう一方の隅に2つ載せます。部屋にはお菓子の載ったテーブルとイス以外は何もありません。

研究者は子供を残して部屋を出ます。研究者が戻るまで待てたらお菓子を2つもらえます。ベルをならして研究者を呼べばすぐにお菓子を食べられますが、1つだけしかもらえません。研究者が戻る前にお菓子を食べたり、椅子を離れたりしても、お菓子は1つしかもらえません。子供がルールを理解したら研究者は部屋から出ていきます。

著者は、自制をするコツとして次のことを挙げています。

  • 誘惑を遠ざける
  • 思考をコントロールして冷却する
  • 他の人ならどうするか考える
  • イフ・ゼンプランを作る(参照⇒「親の情緒の安定が育児でもっとも大事」)
  • 成功体験に基づく自己効力感(「私ならできると思う!」という感覚)を高め、楽観的になる
  • 実行機能(考えや感情、行動をコントロールをする能力)を伸ばす

マシュマロ・テストで長く待てた子供は、実行機能とともに、努力を続けるための動機付け(粘り強さ、やり抜く力)が優れていたそうです。動機付けには目標が必要で、情熱を持てる目標があれば自ら努力や我慢をするモチベーションになります。

著者は、自制のききすぎた人生は、自制の足りない人生と同じで満たされないものという指摘もしています。日本人の多くは勤勉で自制心が強く、健康的な生活を送っていると思うのですが、「幸せか?」と聞かれると、幸福度の低い国だと感ます。自制心は重要な力ではあるのですが、情熱を傾けられる目標を持つことはもっと重要だと思います。がまんしても、その先に喜びがない人生は寂しいものです。

まとめると、子供が情熱を持てる目標を見つけるサポートをすること。たくさんの成功体験を積むために必要な手助けをすること。選ばせたり意見を聞くなどして、子供の自主性を尊重すること。選択には結果が伴うことを経験させること。子供がストレスを抱えたら、気をそらしてハッピーに過ごせるやり方を教えること。親自身が約束やルールを守り、子供が約束やルールを守ることの価値を損ねないようにすること。親がストレスに上手に対処する背中を見せること。などが、重要です。

著者は、大人でも心がけや考え方次第で自制心の働きを変えることはできるとし、自制心を発揮するコツもいろいろと書かれています。

子供が変わるかは分かりませんが、親である自分自身を変えることはできます。親自身の自制心を鍛えて育児が楽しいものになったり、子供とよい関係が築ければそれだけでもいいのではないでしょうか。‟育児”は‟育自”と言われますが、‟育自”の視点からおすすめの書籍です。

タイトル:マシュマロ・テスト 成功する子・しない子
著者:ウォルター・ミシェル
発行日:2017年6月15日
対象年齢:0歳~大人
おすすめ度:★★★★☆
面白かった度:★★★★★