『遺伝子の不都合な真実 すべての能力は遺伝である』感想

育児書レビュー

子供が成長する上で、遺伝と環境の影響は気になるところです。 遺伝の影響が大きいなら、知育なんて無意味です。

頭のいい両親の子供は、頭がいい場合が多い…。

確かにそうですよね。

しかしそれって、遺伝の影響(=頭のいい遺伝子を受け継いだから)なのでしょうか?それとも、環境の影響(=頭のいい両親は、子供の知育にも優れているから)なのでしょうか?

「こう育てたらXX大学に合格しました!」みたいな育児本やノウハウは、遺伝と環境の影響を検討していないので、あまり参考になりません。

そこで登場するのが「行動遺伝学」です。

行動遺伝学は、人は遺伝と環境、どちらにどの程度影響を受けるのか、ということを双子などの比較から推定する学問です。著者は30年にわたり行動遺伝学の分野で双子研究をしています。

スポンサーリンク

どのように遺伝と環境との影響を区別するのか?

行動遺伝学で遺伝と環境の影響を区別する手法は、ざっくりいうと次のようになります。

一卵性双生児の兄弟または姉妹は、同じ遺伝子を持っています。二卵性双生児の兄弟は遺伝子を半分程度共有しています。一卵性双生児の兄弟と、二卵性双生児の兄弟がどれだけ似ているか比較して、一卵性双生児の兄弟が二卵性双生児の兄弟より似ていたら、それは遺伝の影響だと推測します。

また、一卵性双生児が似ていない場合は、環境の影響があったと考えられます。

環境には「共有環境」と「非共有環境」がある

本書では、兄弟を類似させる環境を「共有環境」、異ならせる環境を「非共有環境」としています。つまり、「共有環境」「非共有環境」が具体的に何なのか分かりません。著者はそれぞれの環境を簡単に特定することはできない、とします。同じ家庭で育っても、類似性に影響を与えないものは「共有環境」とは呼ばないとしています。

ちなみに『子育ての大誤解』では、家庭を「共有環境」、家庭の外を「非共有環境」と定義し、家庭が性格形成におよぼす影響を検証しています。

著者の研究で子供を持つ親にとって残念な点は、家庭の影響を検証していないことです。家庭環境の影響を検証するには、別の家庭で育った兄弟を調べようなことをしなくてはいけませんが、なかなか研究対象を見つけることが難しいのだと思います。

とはいえ、いずれにしても結論はそう変わりません。共有環境の定義を何にしたところで、成人後の性格や行動に共有環境の影響はほとんど見られないという結論に変わりはないからです。

同じ家庭(環境)で育てば、つまり、親の背中を見て育つのであれば、兄弟は似るはずです。しかし、行動遺伝学の結論としては、家庭の影響はみあたらないのです。 ありがたいことに子供は親の背中なんか見ていない!このあたりに興味がある方は、『子育ての大誤解』を読むと面白いと思います。

共有環境の影響がほとんど見られないという調査結果が蓄積されているので、親の育て方の影響はほとんどないというのは、行動遺伝学の間では常識のようです。

著者は日本で研究しているので、日本の研究データも紹介しているのですが、やはり、共有環境が子供に与える影響はほとんど見当たらないわけです。

どこの国でも同じ結論なので、人とはそういうものなのだということなのだと思います。

アルコールやタバコなど依存系は親の影響を受ける

子供が親の背中を見て育つのであれば、兄弟の類似性は高くなり、共有環境の影響が強く出るはずです。

しかし、共有環境の影響が見られるのは、知能の面では言語と学業成績、他はアルコールやタバコなどの依存系くらいのものだそうです。ちなみに、知能でも一般知能、空間性知能、論理的推論能力は共有環境の影響はほとんど受けません。協調性、勤勉性、外向性などの性格にもほとんど影響がありません。

親が社交的だと子供もそうなるというのは、遺伝的にはそうかもしれませんが、遺伝以上の因果関係はほとんどなさそうです。

この結果を見ると、言語と学業成績は家庭で影響を与えられるのではないかと思うかもしれませんが、そうでない可能性もあります。兄弟が所属するコミュニティ(学校など)が似ているから、言語も学業成績も似るという可能性があるからです。私はその可能性の方が高いと思っています。

環境が同じだと、成績は似るのに、なぜ性格は似ないのか?

成績は環境の影響を受けるのに、性格は似ないのはなぜでしょうか。個人的な見解ですが、「行動」を真似するのは比較的簡単な一方で、「性格」は簡単には真似ができないということだと思います。

会話や勉強の習慣など「行動」の類似性が高まった結果、言語や学業成績の類似性が高まるのではないかと考えます。

つまり、成績は「どんな行動をしたか(勉強したか)」に左右される傾向があるので似やすく、 性格は「環境をどのように認識しか」という個人の内面世界に左右されるので個人個人ことなります。

認識をマネするのは困難ですが、行動はマネしやすいです。その結果、成績は環境に左右される(=成績がよい学校に入ると成績がよくなる)のだと思います、

女の子が多いクラスにいると、成績がよくなるという研究結果があります。一般的に女の子の方が成績がよいので、成績がよい集団にいると、成績が向上するというわけです。

また、性格は誰かのマネをしようというよりも、自分のポジションを築くために差別化しようという力が働くということもあります。言語や成績は所属するコミュニティの仲間と同じであることを望むため、類似性が高まるのではないかと考えられます。

子供は親に似ない

本書で面白いなと思ったのは、遺伝についての解説です。遺伝子は2万個以上あり、それぞれ父親と母親の遺伝子を「ババ抜き」のように受け継ぎます。受け継いだ遺伝子の組み合わせが足し算的な結果(相加的遺伝効果)をもたらしたとしても、バリエーションが豊富なため、親と子が似ていなくても不思議はありません。ただし、統計的には母親と父親を足して2で割ったような子が生まれる可能性が高くなります。

さらには、組み合わせによって、単なる足し算ではない結果をもたらす「非相加的遺伝効果」もあり、そうなると親子はもっと似ないことになります。著者は、遺伝とは親の性質を受け継ぐことではない、と強調しています。

「遺伝子が2つの多型からなる3種類の遺伝祖型を持つと仮定しても、そのあらゆる組み合わせは数千桁」で、地球が生まれてから消滅するまで地上に存在する人間の数をはるかに上回るといいます。(地球の寿命を100億年、人口を100億人としても20桁にしかならない。)

人はそれぞれ超レアな存在ということですね!

年をとるほど遺伝的な影響が濃くなる!?

遺伝がIQに及ぼす影響は、年齢とともに増加するという研究があります。これは何度も再現され、かなり普遍的な結論のようです。つまり子供の頃は環境もそれなりにIQに影響を与えるけれど、成長するにしたがって遺伝的な影響が強くなるということです。ただし、単純に環境の影響が小さくなるとはいえないかもしれません。

『子育ての大誤解(下)』では、遺伝子の作用を直接遺伝子作用と間接遺伝子作用に分けて説明しています。直接遺伝子作用とは、例えば美しい顔立ちや持って生まれた過敏な性格などです。そして、その直接遺伝子作用は、それ自体が別の作用をもたらすとします。それが間接遺伝子作用です。

例えば、顔立ちが美しい(直接遺伝子作用)子供は親にかわいがられ、友人に慕われる(間接遺伝子作用=環境)といった感じです。美人とそうでない子供とでは経験することが違う、別々の環境で育つようなもの、といわれると身もふたもないのですが、このように遺伝による特性が環境を生み出すことがあります。

そして、行動遺伝学の手法では、直接遺伝子作用と間接遺伝子作用を分けて分析できません。

ざっくりいうと一卵性双子が似ていれば遺伝の影響というような分析をするのが行動遺伝学です。しかし、ある一卵性双子の姉妹が美人で自己肯定感が高かった場合に、その自己肯定感が遺伝子によるものなのか、美人だったことで周囲から常にポジティブな反応があったからなのか、単に「似ているかどうか」を調べただけでは分かりません。

行動遺伝学では、似ていれば遺伝の影響なので、間接遺伝子作用は遺伝として扱われてしまいます。

しかし、成長とともに双子がより似てくる場合、間接遺伝子作用(=環境)と考えるのが自然ではないでしょうか。『子育ての大誤解(下)』では、「年齢とともにIQの遺伝率が上昇するのは、ほとんどが間接遺伝子作用」としています。

つまり、頭のいい子はより頭のよくなる環境の中で育つということです。何がいいたいかというと、実際に環境がIQに与える影響はこの書籍が示しているほど小さくはないのではないか、ということです。

あたたかい親の態度が3歳児の癇癪を和らげる!?

3歳~4歳(36ヵ月~48ヵ月)の子供を対象とした著者らの研究によると、あたたかく接する親の子供の方が感情問題における遺伝の影響が小さかったとのこと。つまり、遺伝的に癇癪を起こしやすいタイプでも穏やかにすごせていたとしています。

調査の詳細が分からないのですが、おそらく因果関係は逆だろうと思います。つまり、癇癪を起こさない子供の親が子供に温かく接することができるという、ごく普通の話ではないかと思うのです。

だって、癇癪を起こす子は、あたたかく接しようが起こしますからね。

少なくても、3歳の時期に親が温かく接したかどうかということが、子供がその後も癇癪を起こしやすい性格になるかどうかには関係ないので、あまり気にしない方がよいかなと思います。

まとめ

行動遺伝学に興味がある方は『子育ての大誤解』がおすすめです。ただ、かなりボリュームのある上下巻なので、行動遺伝学について、手軽に知りたい方には本書をおすすめしたいです。

個人的には、才能、性格、認知能力などの遺伝と環境の比率のグラフが参考になりました。才能は半分以上が遺伝というのは感覚的にその通りだろうと思うのですが、性格は環境の影響が想像以上に大きいのだなという印象を受けました。

タイトル:遺伝子の不都合な真実 すべての能力は遺伝である
著者:安藤 寿康
発行日:2012年7月10日
対象年齢:0歳~
おすすめ度:★★★★☆
面白かった度:★★★★
タイトルとURLをコピーしました